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<セルゲイ・パラジャーノフ監督没後30周年記念上映>

上映中~7月23日(木)

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上映中~7月23日(木)

料金

【特別料金】一般¥1,300/シニア(60歳以上)¥1,200/ユース(19歳~22歳)¥1,100/アンダー18(16歳~18歳) ¥1,000/ジュニア(15歳以下)¥800/UPLINK会員¥1,100/UPLINKユース会員(22歳以下)いつでも¥1,000

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<セルゲイ・パラジャーノフ監督没後30周年記念上映>開催決定

セルゲイ・パラジャーノフ
Sargis Parajanoyan 1924年1月9日~1990年7月20日
ソ連当時のグルジア(トルコの北方、南コーカサス山脈に位置し、現在はジョージアと呼称。ワイン発祥の地と言われている)に生まれたアルメニア人映画監督。鮮やかな色彩と様式による作風は世界映画史上、他に例がなく、死後は年ごとに評価が高まっている。1947年以後、数回に渡り投獄され、強制労働により不自由な生活を強いられながらも、監督や脚本家としてだけではなく、画家や工芸家としても素晴しい作品を残し、人々を魅了している。

『パラジャーノフの創造した宇宙の底知れぬ生命力に圧倒され、いまだに眼にしたことのなかった夥しい事物たちが奏でるざわめきに魅惑されてしまうことだろう。わたしもまた彼の創造した驚異と夢幻の宇宙に心惹かれる者のひとりである。』
 四方田犬彦
(研究者(映画史・比較文学・漫画・記号論)/「心ときめかす」(1988年/晶文社)より抜粋)


『火の馬』(1964年製作/キエフ・ドブジェンコ・スタジオ製作/92分/英題:Shadows of Forgotten Ancestors)
1965年マール・デル・プラタ映画祭国際映画批評家連盟賞・南十字星賞受賞他

パラジャーノフの名を一躍世に知らしめた民俗色あふれる傑作。ウクライナの国民作家ミハイル・コチュビンスキーの生誕100年を記念して、代表作『忘れられた祖先の影』(映画の原題である)をもとに、ウクライナのキエフ・スタジオで製作された。ウクライナ西部カルパチア山脈を舞台に、ハイコントラストな色彩と流麗なカメラワークで、家族同士の積年の対立がまねく悲劇を描いて国際的に高く評価されたが、国内では公開を控える動きがあり、110分のフィルムから97分に短縮された。当時のソ連で問題とされたのは、民族の風俗習慣を強調してエキゾチックに描いたことが、社会主義国家の平等の理念に反するというもの。それ以上に、葬祭のシーンで教会や十字架を執拗に映し出すなど、宗教が民衆の生活や精神に深く根ざしている様子を肯定的に描いていることが、公式なイデオロギーから外れていたため。物語は、反目しあう二つの家の息子と娘が愛し合いながら引き裂かれるという、山岳民族版ロミオとジュリエットの趣だが、パラジャーノフのいう「イワンとマリーチカの愛を巡る詩的なドラマ」は、シェイクスピアの少年少女のように数日で燃え上がって散っていく儚い恋ではなく、幼なじみが育んだ固い絆が一方の死によって断ち切られても、生き残った方が脱け殻のようになりながら過ごす後半生を重厚な画で描いて、運命の不条理や生きることの残酷さ、ままならぬ人の心をうたっていく。現代劇から遠く離れた伝承の物語の体裁をとることで、濃厚な人間関係や激しい感情の描出にリアリティーをもたせているが、実はパラジャーノフ自身がモスクワで映画を学んでいた学生時代に、タタール人の女学生と最初の結婚をしたものの、彼女の親族による報復殺人のために妻を失うという経験をしている。もちろん主人公イワンは監督の自画像ではないし、物語に自伝的な要素はないのだが、この映画を製作する数年前には、6年間連れ添い一人息子をもうけたウクライナ人の妻と別れていることなども、愛と別離の描き方に影を落としていると見るのは不自然ではないだろう。

【STORY】
貧しい家の息子イワンは、山で自分を庇って死んだ兄の葬儀で、不仲な家の当主をなじった父を殺されてしまう。相手の一族に憎しみを募らせる母を大事にしながらも、父の復讐の日に出会い、野原や川辺で幼く無邪気な愛を育んでいく敵方の娘マリーチカとは、将来を誓い合う仲に。やがてマリーチカはイワンの子を身ごもるが、貧しいイワンは結婚のために出稼ぎに行かなければならず、再会を約束してふたりは別れる。イワンの愛を信じて幸福なマリーチカは、未婚のまま身重となったことを村人たちに誹られても気にせず、羊を追って日々を過ごす。ところがある日、はぐれた小羊を助けようとしたマリーチカは、足をすべらせて崖から転落し、川に流されてしまう。騒ぎを聞きつけて川を下ったイワンが見たものは、岸に打ち上げられたマリーチカの亡骸だった。その日からイワンは正気を失い、ボロを着て村をさまようようになる。やがて貧しさが極まった家で、母も亡くなる。そんな彼を疎む者もいたが、同情した村人たちはイワンを立ち直らせようと、彼に好意をよせる娘パラグナとの婚礼をすすめる。マリーチカに想いを残していることを知りながら、いつか自分に目を向けてほしい、イワンとの間に子どもがほしいと切望するパラグナだったが、イワンの心は変わらない。やがてパラグナは言い寄る男に気を許し、人前でも浮気を隠さないまでになるが、イワンは妻の不貞にも無関心で、マリーチカの亡霊を追い続ける…。

監督:セルゲイ・パラジャーノフ
出演:イワン、イワン・ミコライチェク、マリーチカ、ラリサ・カドチニコーワ
脚本:セルゲイ・パラジャーノフ イワン・チェンデュイ 
原作:ミハイル・コチュビンスキー
撮影:ユーリイ・イリエンコ
美術:M.ラコーフスキイ、G.ヤクトーヴィチ
音楽:ミロスラフ・スコーリク


『ざくろの色』(1969年/アルメンフィルム・スタジオ製作/73分/英題:The Colour of Pomegranates)

パジャーノフの代表的作品と評価が高い作品であり、その製作と公開の経緯、作者の手によらない不本意な削除とオリジナルの逸失、これ以降パラジャーノフを襲った拘禁の日々などなど、フィルムとフィルムにまつわるすべての挿話が桁外れの伝説に彩られた神話的映画。もともとはアルメニアの吟遊詩人サヤト・ノヴァに捧げる伝記絵巻として構想され、タイトルも『サヤト・ノヴァ』として製作されたが、当局がこれは正統な伝記物語ではないとして、詩人の名を冠した題名での公開を禁じたため、現在知られる形になった。短縮版の編集は、ユトケーヴィチによる。カットされた場面には、ざくろの汁によって古いアルメニアの地図が浮かび上がるなど、民族の歴史や誇りを強調したシーンや、官能的な描写があったという。何よりこの映画を特徴付けるのは、静止画のような撮影方法であり、登場人物は正面を向くか横顔を見せるかで、若き日の詩人と恋人との感情のやりとりも、糸巻や揺れるレースで表現され、二人が同じフレームに入ることはないというユニークなもの。それどころか、詩人の青年時代と恋人は、ひとりの女優によって演じられている。この女優ソフィコ・チアウレリはパラジャーノフのミューズ。劇中では詩人と恋人のみならず、尼僧、天使、その他の衣装をつけて多くの場面に登場し、美と神秘の華麗な迷宮造りに貢献している。固定したカメラで事物を絵画的に見せる手法は、サヤト・ノヴァのために生み出されたのではなく、すでに『火の馬』の幾つかの章のはじめで樹皮のアップや民具を挟み込むなど、象徴と美術品への志向の萌芽はあった。

【STORY】
映画はいきなり字幕で「これはサヤト・ノヴァの伝記ではない」と断って始まる。とはいえ詩人の生涯を、絵画的な隠喩とパントマイムでたどる道程は、回想シーンによる時間の巻き戻しなども含みつつ、時系列の挿話による章立てで構成されている。幼年時代は愛情あふれる両親によって護られ、幼くして美と言葉への愛にめざめ、書物を慈しみ、宮廷詩人となってからは高貴な女性に愛を捧げ、詩と琴の演奏によって想いを伝える。やがて王妃との悲恋は詩人を死の予感で満たし、修道院に幽閉されて、立ち会う冠婚葬祭の彩りのうちに人生の真理に触れる。やがて老いた詩人は、自分の出会った人びとを思い出しながら、死を迎える準備をする…。

監督・原案:セルゲイ・パラジャーノフ
出演:青年詩人・詩人の恋人・尼僧・天使・パントマイム:ソフィコ・チアウレリ、子ども時代の詩人:M・アレキアン、修道院の詩人:V.ガレスタイン
撮影:スゥレン・シャフバジャン
美術:ステパン・アンドラニキャン
音楽:チグマン・マンスゥリャン


『スラム砦の伝説』(1984年/グルジアフィルム・スタジオ製作/83分/英題:The Legend of Suram Fortress)

官僚から反ソ連的な監督との烙印を押されて15年。不当な逮捕と収監によって自由を奪われ、映画製作も出国も禁じられたパラジャーノフに、グルジアで権力を握ったシュワルナゼが救いの手を差し伸べる。ウクライナで撮った『火の馬』、アルメニアで撮った『ざくろの色』に続き、久々の映画界復帰作はグルジア映画となった。バラジャーノフの両親はアルメニア人だが、彼が生まれたのはグルジアのトビリシなので、当地で映画を製作することには何の文化的言語的な障害もなかった。中世のおとぎ話らしく華やかで、少し残酷で暴力的なところもある不思議な世界は、まさにパラジャーノフの独壇場である。監督自身は、日々の鍛練の継続が必要なバレリーナや職人にたとえて、16年ぶりに映画を撮る自分は腕がなまっているに違いないと謙遜し、もどかしがってもいたが、大草原を馬列が駆け抜け、旗が翻る勇壮な場面から、やがて生贄となる青い眼の美しい青年を捉えた感傷的なショットまで、やっと不当な介入や干渉から逃れて自分の表現に邁進するパラジャーノフの高揚感が漲る、力強い作品となった。ただ、準備と撮影には充分な時間を割くことが出来ず、スケールの大きな歴史絵巻をわずか一ヶ月で撮り上げたことから生じる粗さは否めない。

【STORY】
幾度となく敵の大軍の侵入を受け、多大な犠牲を出していた中世グルジア。皇帝は、自分は皆と同じく戦士だといって国民との平等を宣言し、民を守るために砦の建設に着手する。ところがトビリシの南のスラム砦だけは、何度建造してもすぐに崩れてしまい、祖国防衛の用をなさない。強固な砦の完成は、グルジア国民にとって希望と安心につながる特別な事業となっていく。やがて崩れず、破壊されない砦を築くには、生贄の人柱が必要だという占いが出て…。解放奴隷のドゥルミシハンにはヴァルドーという恋人がいたが、公爵に騙されたことを知って、何もかも捨てて旅に出る。放浪の末に隊商に加わり、成功したドゥルミシハンは妻を娶るが、彼に捨てられたヴァルドーは、思い切れずに占い師のもとに通い、自らもその跡を継いで占い師となる。ある日、ヴァルドーのもとにドゥルミシハンの妻が、生まれて来る子どもの未来を占ってもらいに来るのだが…。

監督:セルゲイ・パラジャーノフ
出演:ヴァルド/予言者:ソフィコ・チアウレリ、グルジアの商人/人形使いシモン:ドド・アバシーゼ、ドゥルミシャン:ズラブ・キプシーゼ、老予言者:ヴェリコ・アンジャバリーゼ
脚本:ラジャ・ギガシュビリ
撮影:ユーリー・クリメンコ
美術:アレクサンドル・ジャンシヴィリ
衣装:イリーナ・ミカターゼ
音楽:ジャンスゥグ・カヒーゼ


『アシク・ケリブ』(1988年/グルジアフィルム・スタジオ製作/74分/英題:Ashik Kerib)

一部からグルジアの歴史や描写を歪めているという糾弾を受けた「スラム砦の伝説」だったが、ペレストロイカの流れは止まらず、パラジャーノフは続けてグルジアで『アシク・ケリブ』を撮ることとなった。原作は、カフカス地方に暮してその風土と人心に魅せられた、世界的に知られるロシアの詩人レールモントフによる恋物語。貧しいが才能あふれる詩人、愛し合う恋人たち、周囲の無理解と恋敵、青年の流浪と帰還、さまざまな人との出会いと学び…まさにパラジャーノフ世界の集大成の物語であり、音楽、美術、演出の洗練も極まって、監督自身が最も得心のいった作品となった。満足感と愛しさからこれを遺作としたいと語ったパラジャーノフだが、観客にとって残念なことに、その願いは叶えられてしまった。ともあれ、パラジャーノフ作品の中では、検閲による傷を受けていない稀なフィルムでもある。辺境の少数民族にロマンチックな眼差しを向けているかに見えるパラジャーノフだが、もともと民族の独自性より交流の歴史や他者への寛容を重視していたので、厳密な伝統文化の再現などは試みていない。それどころか、恋人たちが花占いに興じるシーンでは、東洋の弦楽器で「ツィゴイネルワイゼン」を奏でて波乱万丈の恋路を暗示し、敬愛する老人の死に際しては「アヴェ・マリア」に異教的な朗唱を重ねて葬る。そして物語が終わったラストシーンは、カメラに白い鳩を止まらせて、まるで紙芝居が終わったかのような演出をしている。この作品は、親友で先に亡くなったタルコフスキーに捧げられているが、パラジャーノフもまた盟友と同じ病に倒れることになる。

【STORY】
アシク・ケリブは貧しい吟遊詩人。領主の娘、マグリ・メヘルと愛し合っていたが、結婚の許しを求めると、「貧乏人に娘はやれぬ」と罵倒され、愚弄と嘲笑のすえに追い払われる。アシクは嘆き悲しみ、きっと身を立てて帰るからと言い置いて旅に出るが、後を追ってきた恋敵に騙されて服を奪われ、卑劣な恋敵はアシクの衣類を見せながら、彼は川で溺れ死んだと吹聴して回る。アシクの母は嘆き悲しみ、絶望のあまり眼が見えなくなってしまう。マグリは恋人の死を信じず、いつまでも待つと誓うが、アシクを追い払った父親は恋敵との縁談をすすめる。衣服を奪われて半裸で隠れていたアシクだが、善良な人びとに出会って着物を与えられ、川に流された楽器も拾われて、その清められた音色で癒しと喜びの曲を奏でて人々に愛される。目の不自由な人びとの結婚式に出たり、好戦的な王に鎧を着せられて自分を讃える歌を歌えと強要されたり、さまざまな経験と試練の果てに、魔法の力で救われて、白馬に乗って千里を一日で帰って、父の言いつけで愛のない結婚をするなら明日の朝には自害すると嘆く恋人のもとに駆けつけ、母の目にも光を取り戻す…。

監督・原案:セルゲイ・パラジャーノフ ダヴィッド・アバシーゼ
出演:アシク・ケリブ:ユーリー・ムゴヤン(歌はアリム・ガシモフ)、マグリ・メヘル:ヴェロニカ・メトニーゼ、アシクの母:ソフィコ・チアウレリ
原作:ミハイル・レールモントフ
脚本:ギーヤ・バドリーゼ
撮影:アルベルト・ヤヴリャン
美術:ゲオルギー・メスヒシヴィリ ショタ・ゴゴラシヴィリ ニコライ・サンドゥケリ
音楽:ジャヴァンシル・クリエフ