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ケネス・アンガー追悼特集「マジック・ランタン・サイクル」

上映中~7月20日(木)

日時

上映中~7月20日(木)

料金

【特別料金】一般・シニア¥1,200/ユース(19歳~22歳)¥1,100/アンダー18(16歳~18歳)¥1,000/ジュニア(15歳以下)¥800/障がい者割引¥1,000/UPLINK会員¥1,000/UPLINKユース会員(22歳以下)¥800

詳細 DETAIL

【上映作品】

『マジック・ランタン・サイクル』

※9作品を2つのプログラムに分けて上映

A_PROGRAM

魔術的神秘家アレイスター・クロウリーに捧げられた『ルシファー・ライジング』、アナイス・ニン出演のサイケデリックムービー『快楽殿の創造』、ミック・ジャガーが音楽を担当した『我が悪魔の兄弟の呪文』など、アンガーのめくるめく悪魔的イメージサイド。(Total:90min)

『ルシファー・ライジング』
『快楽殿の創造』
『我が悪魔の兄弟の呪文』
『人造の水』

B_PROGRAM

魅惑的なイメージと音楽のコラージュがミュージック・ビデオの原型と言われるアンガーの最高傑作『スコピオ・ライジング』、男がただただ改造マシン を磨き上げる『K.K.K.』、古き良き20年代のモード『プース・モーメント』、ほろ苦く甘いファンタジー『ラビッツ・ムーン』、アンガーが17歳で監督した『花火』など、アンガーの憧れが詰まったフェティッシュ・サイド。(Total:71min)

『スコピオ・ライジング』
『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』
『プース・モーメント』
『ラビッツ・ムーン』
『花火』

『アンガー・ミー』

(2006年/71分/原題:Anger Me)


【作品情報】

「映画を作ることは魔法をかけることである」

時代を越え、ジャンルを越え、名だたるクリエイターに多大なる影響を与え続けているアンガーの呪術的イメージの集大成「マジック・ランタン・サイクル」

『アンダー・ザ・シルバーレイク』の元ネタというべき、ハリウッド黄金期の闇の歴史を暴いた『ハリウッド・バビロン』の著者。アレイスター・クロウリーに傾倒した魔術師。マーティン・スコセッシ、 デヴィッド・リンチ、 デレク・ジャーマン、R.W.ファスビンダー、デニス・ホッパー、ガス・ヴァン・サント等、数多のクリエイターに影響を与えたアンダーグラウンド映画界のヒーローと、様々な顔を持つ男、ケネス・アンガー。彼に関わりを持つ人々も、ミック・ジャガーや当時ミックのガールフレンドだったマリアンヌ・フェイスフル、作家のアナイス・ニン、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジと一筋縄ではいかない。そしてアンガーの作品で重要な役割を担うボビー・ボーソレイユは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で描かれたシャロン・テート事件の首謀者チャールズ・マンソンの「ファミリー」であり、自身も殺人罪で無期懲役中だ。
近年、 エンパワメントやフェミニズムといった観点からも、“魔女”“魔術”“オカルト”などが注目されるなか、GUCCIの2019年キャンペーンでアンガー自身がモデルに起用され、アンガーの魔術的な世界は再度脚光を浴びている。現代のミュージックビデオやCMの始祖と言われる鮮烈な映像は、時代を越え、ジャンルを越え、色あせることなく私たちを魅了する。

A_PROGRAM (Total:90min)

①『ルシファー・ライジング』(1980年/カラー/28分)

魔術的神秘主義者アレイスター・クロウリーに捧げられた作品で、砂漠、寺院、スフィンクス、空飛ぶ円盤、といった魔法の象徴的モチーフが散りばめられている。マリアンヌ・フェイスフル演じるリリスは古代エジプト神話に伝わる女性の悪霊。オープニング・タイトルは『2001年宇宙の旅』のSFXを担当したウォーリー・ヴィーヴァーズによるもの。1966年に撮影が開始され、当初堕天使ルシファー役の少年が事故死したため、ボビー・ボーソレイユが代役に立った。しかしボーソレイユは完成途中のフィルムを盗難。その後マンソン・ファミリーにまつわる殺人事件で死刑を宣告された彼は獄中のなかでスコアを手掛け、1980年にようやく完成した。アンガーが当初依頼していたものの使用されなかったレッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ(本作にも出演)によるサウンドトラックは、2012年に公式リリースされた。

②『快楽殿の創造』 (1953年/カラー/38分)

イギリスのロマン派詩人サミュエル・テイラー・コールリッジの『クーブラ・カーン』(1798年)から着想を得て、アンガーがアレイスター・クロウリーの神秘思想や呪術的な儀式の映像化に挑んだ作品。チェコの作曲家レオシュ・ヤナーチェクによるグレゴリック・ミサをバックに、アーティスト/女優のマージョリー・キャメロンが魔女(スカーレット・ウーマン)、著作家のアナイス・ニンが月の女神アスターテを演じる。1958年のブリュッセル万国博覧会に出品されたバージョンは、3画面の投影装置・ポリビジョン方式にて上映された。SF『五十年後の世界』や自身の『プース・モーメント』からの引用を交え、退廃的な雰囲気とめくるめく色彩の連続は、当時ハリウッドで流行していたLSDによる幻覚がベースになっているとアンガーは告白しており、70年代のサイケデリック・カルチャーを先取りしていたと言えるだろう。

③『我が悪魔の兄弟の呪文』 (1969年/カラー/11分)

ヘイトアシュベリーに存在し、1967年にアンガーとクロウリーによる公演『エキノックス・オブ・ザ・ゴッズ』が開催された劇場、ストレート・シアターと、1966年から67年にかけてアンガーが住まいとしていたサンフランシスコの歴史的建造物ウェスターフィールド・ハウス=通称“ロシア大使館”で撮影された。ここに居住していた悪魔教会の教祖アントン・ラヴェイのほか、ローリング・ストーンズのメンバーと浮名を流した女優アニタ・パレンバーグ、収監される前のボビー・ボーソレイユが登場。ベトナム戦争やローリング・ストーンズのハイドパークでのライブといった、カウンター・カルチャー全盛の当時の時代背景が色濃く現れたフッテージがインサートされている。粗編集版を観たミック・ジャガーがモーグ・シンセサイザーによる即興を駆使したサウンドトラックの提供を買って出て、不穏なムードを強調している。

④『人造の水』(1953年/カラー/13分)

原題“Eaux D’Artifice”はアンガーの造語で、フランス語の花火“Feu D’artifice”をもじってつけられた。水の魔力がテーマで、ユネスコの世界遺産に認定されているイタリア・ティボリのエステ家別荘の噴水庭園で撮影された。ヴィヴァルディの『四季』より『冬』が流れるなか、庭を歩く女性やバロック様式の彫像、そして噴水が幻想的なタッチで描かれる。50年代パリやローマなどヨーロッパを転々としていたアンガーは、ジャン・コクトーやフェデリコ・フェリーニらと親交を深め、今作に登場する小柄な女性もフェリーニに紹介されたという。無声映画のような効果を生むため、16ミリのモノクロフィルムで日中に逆光の状態で撮影したあと、青いフィルターをつけてカラーフィルムに焼き青みがかった画にすることで、庭園を照らす月光とそれにより浮かび上がる白い色を表現している。


B_PROGRAM (Total:71min)

①『スコピオ・ライジング』(1963年/カラー/29分)

ポップソングにのせバイカーたちの日常とレザーやバイク、スタッズなどをフェティッシュに描き、デヴィッド・リンチ、ギャスパー・ノエ、ニコラス・ウィンディング・レフンなど後代の映画作家に影響を与え、ミュージック・ビデオの元祖とも言われている。ブルックリンで現地のバイク好きの若者たちに声をかけ、彼らの素の姿を収めることをアンガーは狙った。マーロン・ブランド主演の『乱暴者』が映るテレビ、ジェームズ・ディーンの写真が貼られた壁や名誉除隊の書類も実際に彼らのもの。ボビー・ヴィントン『ブルー・ヴェルヴェット』、エルヴィス・プレスリー『悲しき悪魔』などの作中流れる音楽は、当時ラジオで流れていたアメリカのポップソングという基準で13曲使用。なお、作中に突然宗教的なシーケンスが挿入されるが、これは今作の編集中に教会の日曜学校用のフィルムが間違って玄関先に届けられていたものを借用したという。

②『K.K.K. Kustom Kar Kommandos』 (1965年/カラー/4分)

若者、ドラッグレース、カスタムカーをテーマにしたこの企画は、『スコピオ・ライジング』の後、当初長編として制作される予定だったフォード財団から1万ドルの助成金を得ていたもののアンガーはそれを他の用途に使用したため資金不足により頓挫し、3分間のこの作品だけが完成した。Kommandosが複数形となっているのはその名残で、実際にはひとりの若者だけが取り上げられている。3つの単語の最初のスペルがKになっているのは、ティーンエイジャーたちがこのような小さなアイディアで大人が入り込めない自分たちだけの世界を構築していることを表現するためだと、アンガーは語っている。フィーチャーされている楽曲も、ボビー・ダーリンのナンバーをザ・パリス・シスターズがカバーした「ドリーム・ラバー」だけに、自分の愛車をパフで愛でるように磨く青年と改造車のラブストーリーと表現したい作品。

③『プース・モーメント』 (1949年/カラー/6分)

基は『プース・ウィメン』という40分の作品になる予定だったが、アンガー曰く家族からの援助がもらえずこのバージョンとなった。タイトルは作品に登場する20年代ハリウッドで人気だったピュース色(暗い紫味の赤褐色)のドレスに由来する。その次代のハリウッド・スターがくつろぐ豪華な生活を映像化しており、映画で使用されたドレスは、無声映画の時代に衣装デザイナーであったケネス・アンガーの祖母が所有していたもの。クララ・ボウやメイ・マレーといった女優が実際に着ていたドレスが使用されている。女優を演じるのはイヴォンヌ・マルキス。アンガーによるとこの映画の後、彼女はメキシコに移りカルデナスの大統領愛人になった。音楽を担当したのはジョナサン・ハルパー。2014年に人気バンド、フランツ・フェルディナンドが挿入曲「Leaving My Old Life Behind」をカバーしている。

④『ラビッツ・ムーン』(1950年撮影、1971年完成/カラー/16分)

ベースとなっているのは、コメディア・デラルテというイタリアの仮面即興劇で、そこに「月にウサギがいる」という日本の昔話がモチーフになっている。満月に思い焦がれる悲劇的なピエロが主人公で、彼が憧れている娘コロンビーヌと悪魔が変装したペテン師のハーレクインのコミカルな三角関係と神話的なモチーフが同居している。1950年にアンガーがジャン・コクトーに憧れフランスに滞在している際に撮影されたものの、その後日の目を見ず未完成のままだった。1971年に完成した16分のバージョンでは当時のドゥーワップが多用されている。1979年の7分のバージョンはスタン・ブラッケージの息子ロークの誕生会で上映するために、倍速でコマ飛びしでプリントした素材を使用し、よりコミカルさが強調されている。繰り返し使用されている音楽は、A Raincoatというバンドの「It Came In The Night」。

⑤『花火』(1947年/白黒/15分)

アンガーが17歳の頃に監督・撮影・編集・主演を兼ね完成させた、実質上の処女作。ハリウッドにあるアンガーの祖母の家で、家族が出かけている間に撮影された。撮影助手は写真家のチェスター・ケスラーが担当し、音楽はイタリア人作曲家レスピーギのレコードを使用している。性的な妄想にとりつかれた少年をアンガー自身が演じている。大挙して押し寄せる水兵たちに少年が暴行を受けるなどのサド・マゾ的、同性愛的描写や、ペニスが花火に変わるといった性衝動のイメージにより、作品が発表されるとアンガーはわいせつ罪で逮捕されてしまう。事件はカリフォルニア州最高裁判所に持ち込まれたが、裁判所はポルノではなく芸術であると見なし、彼は無罪となった。この作品をきっかけに性科学者アルフレッド・キンゼイとの交流が始まり、1956年にキンゼイが亡くなるまで友情を育んだ。

ケネス・アンガー「マジック・ランタン・サイクル」HDリマスター
配給・宣伝:アップリンク


『アンガー・ミー』(2006年/71分/原題:Anger Me)

『アンガー・ミー』は、カナダのフィルムメーカー、エリオ・ジェルミーが2006年に制作したインタビュー・ドキュメンタリーで、ケネス・アンガーが1時間あまりカメラに向かって、幼少期から『スコピオ・ライジング』など自作について語る作品だ。
ハリウッドの著名人たちのゴシップを書いたアンガーの著作『ハリウッド・バビロン』に例えるならば、『アンガー・ミー』はアンガー自身が語る『ハリウッド・バビロン:ケネス・アンガー編』とも言えるだろう。

「ケネスは本質を突く複雑な人物だ。つまり詩人だよ。」
――ジョナス・メカス

神秘主義的映像や革ジャンにバイクというハードコアなイメージの映像で知られるアンガーの作品だが、本人は、映画の冒頭でジョナス・メカスが語るように「ケネスのことは、誰もがかなり気難しく、どうしようもない奴だと言っていたが、私が知っているケネスは誰よりも優しくて親切な人だったよ。彼は繊細で知的な天才映像作家だ」というのがよくわかる。

マヤ・デレンらと実験映画の配給会社「クリエイティブ・フィルム・アソシエーツ』を立ち上げた話、ジャン・コクトーに会いにパリに行き、シネマテーク・フランセーズでアンリ・ラングロワに採用され働き始めたこと、そのシネマテークでは収蔵していたエイゼンシュテインの『メキシコ万歳』のフッテージを再編集し、コッポラが所有していた35ミリフィルムを借りて、船のマストに掲げられる旗を赤色に手作業でしたエピソード。ローマに住んでいたときに接したフェリーニ、ヴィスコンティ、パゾリーニの話、『快楽殿の創造』を1958年ブリュッセル万国博覧会で3台の16ミリ映写機を同期させ3面マルチスクリーンで上映したこと。『ルシファー・ライジング』では、ルシファー役にキャスティングし、のちにマンソンファミリーの一員として投獄されたボビー・ボーソレイユと仲違いし、彼にフィルムを盗まれ落ち込み、映画監督をやめようと思った話。その後ロンドンに行き、そこで監督引退の気が変わり、ローリング・ストーンズとBFIの協力で、『我が悪魔の兄弟の呪文』を製作できたエピソード。そして、『スコピオ・ライジング 』がLAのミッドナイトスクリーニングでプレミア上映された際に、劇場に警察が現れ、映写技師と支配人が逮捕され、フィルムが押収されたこと。その後、カリフォルニア州の最高裁判所では公共の場での上映にふさわしいという判決が出て、映画の社会的価値を取り戻し、表現の自由に関しての先駆的な訴訟事件としてその後の映画の表現に影響を及ぼしたことを自らが語るアンガーの映画史である。

映画の最後でアンガーはこう語る。
「私は映像詩人だ。コクトーが生み出した流れを喜んで継承する。生は死と同じくらい神秘的だ。どちらも誰にも解けない謎だろう。恐ろしくて不可解な謎というより興味をかき立てられる謎だ。自分の次の大いなる冒険が死でも構わない。それは新たな挑戦だ」

監督:エリオ・ジェルミーニ
出演:ケネス・アンガー、ジョナス・メカス
配給・宣伝:アップリンク