03.31月
15:55—16:42
04.01火
16:35—17:22
04.02水
16:35—17:22
04.03木
12:05—12:52
3月28日(金)19:20の回上映終了後
登壇者:永瀬正敏、ミズモトカナコ、井上淳一
※敬称略 ※登壇者は予告なく変更になる場合がございます。予めご了承ください。
人っ子一人いない廃墟のような街で男は運河に流れ着いたゴミを拾い集める。
そこに現れる女。
男の日常に微かにひびが入り始める。
『青春ジャック』の木全純治と井上淳一が永瀬正敏の原案を得て、名古屋で撮った“喪失と再生の物語”。
撮影から11年、幻の傑作、ついに全国公開。
『戦争と一人の女』の舞台挨拶で監督の井上淳一とシネマスコーレを訪れた永瀬正敏は、支配人の木全純治よりとある企画の監督依頼を受ける。それは名古屋市内を流れる中川運河という今はもう使われていない運河を舞台とした短篇映画だった。奇しくも中川運河は名作『泥の河』の舞台でもあった。永瀬は「出演はするが、監督は井上さんで」と言い、永瀬主演×井上監督での製作がその場で決定した。
すぐに訪れたロケハンで、永瀬は映画の舞台となる鉄屑工場と出会い、シャッターを切りまくる。その二日後、井上のもとに永瀬から一本のプロットが届く。それは、誰もいない街の廃工場でひとり筏を作り続ける男の話だった。そこにひとりの女が訪れる──
井上は永瀬のプロットに、東日本大震災後のイメージをプラスし、脚本を執筆。原発事故後の誰もいなくなった世界に取り残されたような男と女の話を作り上げた。そして、黒澤明の隠れた名作『生きものの記録』と同じタイトルをつける。『生きものの記録』は度重なる原爆実験による放射能の恐怖に怯えた三船敏郎がひとり孤独に狂っていく話だ。井上は「黒澤は狂っているのは三船か、何も感じないお前らか、と観客に問うている。これは三船のその後の話だ」と同タイトルをつけた理由を語っている。また、後年、『箱男』を観た井上は「これは、『箱男』を作れなかった時代の、永瀬正敏による『箱男』ではないか」とも述べている。果たして、その真意は──
女を演じるのは、『福田村事件』のミズモトカナコ。当時、まだ京都造形大学の学生だったミズモトは永瀬相手に一歩も引けを取らない堂々たる演技を見せている。撮影は、『極悪女王』の鍋島淳裕。過去とも未来ともつかない世紀末的風景をモノクロ映像で見事に捉えている。プロデュースは木全純治。これは『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』コンビの初タッグでもある。そして主題歌は、2023年に亡くなった「頭脳警察」のPANTA。寺山修司と高取英による詩にPANTAが曲をつけた「時代はサーカスの象にのって」がせつなく流れる。
本作は2013年に撮影。当時は47分の短篇を上映する環境になく、翌14年にシネマスコーレのみで公開。しかし、近年、『ルックバック』や黒沢清の『Chime』などのヒットにより状況が変化。24年、井上の師である若松孝二13回忌イベントで上映。そこでの絶讃を受け、ついに全国公開となる。幻の傑作が今ここに蘇る。
『いきもののきろく』(2014年/日本/モノクロ/DCP/5.1ch/ビスタ/47分)
監督・脚本:井上淳一
出演:永瀬正敏、ミズモトカナコ
配給:ドッグシュガー