2.1軍事クーデターから5年ー
異国で懸命に生きる彼らの姿は
排外主義が進む世界の希望となり得るか

2021年2月1日、ミャンマー国軍によるクーデターが起き、ミンアンフライン総司令官が全権を掌握、国家指導者の地位に就く。国軍は2020年の総選挙を無効とし、非常事態宣言を布告すると、選挙で勝利した国民民主連盟(NLD)政権の指導者アウンサンスーチー氏らが拘束された。 このクーデターに対し、国民はミャンマー全土で非暴力の抗議デモで激しく抵抗、多くの公務員たちが抵抗の意志を示すために職場を離れ、市民不服従運動(CDM)を展開したが、国軍は武力で弾圧し、拷問死も含め多数の死傷者を出した。その結果、推定350万以上の人々が国軍の弾圧を逃れ、国内避難民となった。日本でもクーデター直後から当時4万人ほどいた在日ミャンマー人たちの多くが抗議のデモで立ち上がる。各地で働く技能実習生の若者たちも休日を返上し、地方から東京での抗議デモに駆けつけ、現地支援のための募金活動にも奔走する。

パレスチナや福島を個人の目線で映し出し、
数々の受賞作品を輩出してきた土井敏邦監督最新作
『沈黙を破る』、『福島は語る』、『津島』、『ガザからの報告』など、そこに暮らす人々の視点で丹念に映し出してきた作品は数々の受賞を重ねてきた土井敏邦監督。本作は祖国・ミャンマーの民主化運動のために日本に亡命したチョウチョウソー(チョウ)を14年追った『異国に生きる-日本の中のビルマ人-』(2013年公開、文化庁映画賞文化記録映画優秀賞)の続編的位置づけとなる作品。 第一部では、デモに参加した若者たちの祖国のクーデターへの怒りと悲しみ、深い思いを伝え、第二部ではタイ側の国境沿いの町に避難したミャンマー人たち、とりわけ子どもたちが通う学校の支援を続ける在日ミャンマー女性を追う。そして第三部では前作のチョウのその後を追い、さらにクーデターを起こした国軍と日本との関係を追う。 世界で民主主義が後退しつつある中、そのレンズに映る在日ミャンマー人たちの姿は、私たちに自由、民主主義そして祖国とは何かを問いかける。


ミニ年表・ミャンマーの歴史
1948年 ミャンマー独立(当時はビルマ)
1962年 国軍のネウィン将軍がクーデターで実権を握る
1988年 大規模な民主化運動が発生し、アウンサンスーチー氏も参加。国民民主連盟(NLD)結党
1989年 スーチー氏自宅軟禁状態に(以降、2010年まで計3回15年にわたり軟禁)
1990年 総選挙実施。NLD圧勝も軍政が結果無視
2010年 20年ぶりの総選挙実施。NLD不参加で国軍系政党が圧勝。選挙後、スーチー氏が解放される
2011年 テインセイン大統領の下で民政移管。NLDが政党登録
2015年 総選挙でNLD圧勝、翌年NLD政権発足、スーチー氏は国家顧問兼外相に
2020年 総選挙で再びNLD圧勝
2021年 国軍が3度目のクーデターでスーチー氏らを拘束、非常事態宣言。ミンアウンフライン総司令官が議長に


土井敏邦(どい・としくに) 監督プロフィール
1953年佐賀県生まれ。 1985年よりパレスチナ・イスラエルの現地取材を開始、1993年より映像取材も手掛け、NHKや民放で多くのドキュメンタリー番組を発表。2009年、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、第4部にあたる『沈黙を破る』は初の劇場公開作品として同年5月に公開、第83回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞を受賞する。
その後、『”私”を生きる』(2010、座高円寺ドキュメンタリーフェスティバル奨励賞)、『飯舘村 第一章・故郷を追わる村人たち』(2012、ゆふいん文化・記録映画祭/第5回松川賞)、『異国に生きる 日本の中のビルマ人』(2012、文化庁映画賞文化記録映画優秀賞)、『飯舘村―放射能と帰村―』(2013)、『”記憶”と生きる』(2015)など精力的に劇場公開作品を制作。他にも5部作『ガザを生きる』(2015)で大同生命地域研究特別賞を受賞。
2019年には『福島は語る』(2018)で文化庁映画賞文化記録映画優秀賞、コロナ禍後は『愛国の告白―沈黙を破るpart2―』(2022)、『津島ー福島は語る・第二章ー』(2023)、『ガザからの報告』(2024)を公開。2024年公開の『津島』では、第75回芸術選奨・文部科学大臣賞(映画部門)を受賞する。
主な著書に『占領と民衆―パレスチナ』(晩聲社)、『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『アメリカのパレスチナ人』(すずさわ書店)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』(岩波書店)、『沈黙を破る』(岩波書店)、『“記憶”と生きる―元「慰安婦」姜徳景の生涯』(大月書店)、『ガザからの報告』(岩波ブックレット)など多数。

『在日ミャンマー人 -わたしたちの自由-』
(2025年/日本/171分/カラー)
監督・撮影・編集・製作:土井敏邦
編集協力:尾尻弘一
配給:きろくびと